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最高裁判所第三小法廷 昭和59年(オ)885号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人大橋武弘の上告理由一ないし五及び七について

主たる債務者から委託を受けて保証をした保証人(以下「委託を受けた保証人」という。)が、弁済その他自己の出捐をもつて主たる債務を消滅させるべき行為(以下「免責行為」という。)をしたことにより、民法四五九条一項後段の規定に基づき主たる債務者に対して取得する求償権(以下「事後求償権」という。)は、免責行為をしたときに発生し、かつ、その行使が可能となるものであるから、その消滅時効は、委託を受けた保証人が免責行為をした時から進行するものと解すべきであり、このことは、委託を受けた保証人が、同項前段所定の事由、若しくは同法四六〇条各号所定の事由、又は主たる債務者との合意により定めた事由が発生したことに基づき、主たる債務者に対して免責行為前に求償をしうる権利(以下「事前求償権」という。)を取得したときであつても異なるものではない。けだし、事前求償権は事後求償権とその発生要件を異にするものであることは前示のところから明らかであるうえ、事前求償権については、事後求償権については認められない抗弁が付着し、また、消滅原因が規定されている(同法四六一条参照)ことに照らすと、両者は別個の権利であり、その法的性質も異なるものというべきであり、したがつて、委託を受けた保証人が、事前求償権を取得しこれを行使することができたからといつて、事後求償権を取得しこれを行使しうることとなるとはいえないからである。右と同旨の原審の判断は、正当というベきである。論旨は、右と異なる見解に基づいて原判決を論難するものであつて、採用することができない。

同六について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安岡満彦 裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治 裁判官 長島 敦)

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